J-scat日本作詞作曲家協会



<デジタル著作権時代への対応>

JASRACは日本を代表する著作権管理事業者として、5年後~10年後のネット環境の進化を見据えた、著作権使用料徴収と分配の研究や対策を行っていなければならない立場です。
デジタル著作権時代に、画一的概念は通用しません。
2012年以降の数年は、「クラウド(Cloud)」が音楽使用の新しい環境となるでしょう。そしてそれは音楽著作権にも新しい概念をもたらすでしょうし、様々な変化の目玉になると思われます。
クラウドは、目に見えない駅のようなものです。今は個人の仮設倉庫みたいな存在ですが、近い将来、権利の垣根が取り払おうとするでしょう。そして、その駅のホームには有象無象の音楽や映画や小説などの「著作物」がうごめき、著作物の取引がグロス感覚で頻繁に行われることになるでしょう。
著作物はその駅のホームでいくつも複製され、突然行き先を変え、持ち主を変え、国を超え、知らない所に行ってまた新たな複製を作り、そしてまた旅にでる。その著作物自体が子か孫か親かなど結局どうでもよいとばかりに増え続け、新種の著作物をこの世界に作りだすことになるのです。この繰り返しが「著作権の価値を限りなくゼロに近づける力」を、そのうち持ち始めるものと考えられます。
クラウドを進めるApple、Amazon、Google等が求める先は何かと考える時、「権利の垣根を取り払う」という答えが見えてきます。
このような事態が続けば、寧ろ我々JASRACの海外市場“取り込み”が必要となるかもしれません。そのための定款改正も必要になるかもしれません。私達は、全てにおいて冷静に対応するべきですが、だからそのための議論が必要だと考えます。デジタル著作権時代がもたらす問題は、理事会のキャパシティを越えていくと考えます。
「クラウド」「プラットフォームビジネス」は「全ての著作物を、ゼロに近い使用料で、全世界のユーザーに激安で提供する」と考えられます。何故ならば、この世界的ビジネスの足かせが「著作権」だからです。逆に「著作権」をもっと「フリー」に近づけられれば、彼らの利益は大きくなります。
この状況が、権利者にとって丁度いいプロモーションだと考えるか、生活の糧(新曲のインセンティブとなる糧)にならない安売りマーケットと捉えるかはいろいろあると思います。ただ、このビジネスの行き着く先は“あるエリア”“ある期間”“ある目的”に於ける「著作権フリー」の楽園であると考えて間違いないと思います。
2012年2月末、アップルは日本の音楽配信事業者に対し、今後はiTunes Storeで配信する音源からコピーガードを全て外して販売すると通達してきました。一企業であるアップルが、国外の著作物を借りる立場にありながら、この一方的通達で締めてくるのです。コピーガードを付けるか外すかの権利は、著作権者にあります。
激烈に進化していく環境を目の当たりにして、急ぐべきはこういう「兆し」を敏感に捉えること、ユーザーが動く先に手を打つことではないかと考えます。
これは「規制」ではありません。ユーザーが著作権解釈に迷わないようにするための「ランドマーク」を作るということです。
会員・信託者の中には、進化する環境に的確な意見を持つ人々がいるはずです。デジタル著作権に限っては、正会員だけで事を運べるものではないと思います。幅広いJASRACメンバー全体から知恵を集めて対策を練る必要があると考えます。


<違う意見や疑問を排除してはいけません>

疑問や異なった意見があるということは、違う観点からものを考えられる人材がいるという証で、これ以上素晴らしいことはないのです。大きい組織はとかく権力に流されやすい。
J-scatは異端児ではありません。むしろ真っ当に真剣にJASRACの行く末を心配しているのです。だから異見も疑問も申し上げているのです。目立ちたいだけでここまでの意見は準備できません。周囲からうるさい者どもだと揶揄されても意見や疑問を言い続けます。JASRACが日本の音楽界にとって、とても重要だからです。
著作権そのものの考え方・とらえ方が急激に変わってきています。米国の著作権学者は「クリエイティブ・コモンズ」という考えを編みだし、著作物の非営利使用に関する新たな考え方を発表しました。
米国では「フェア・ユース」という著作物の非営利使用に関する規程がありますが、日本にはありません。チャリティやボランティアが進んでいる海外の国々を参考にしなければならないことも、今後は増えると考えられます。
外も内もめまぐるしい動きの連続で、JASRACも会員・信託者も翻弄されそうですが、そういう時だからこそ、様々な意見や疑問をしっかり受け止め、私達の義務と権利を明確にしていかなければなりません。


<何も終わっていません>

公正取引委員会による排除措置命令から3年。
2012年には排除措置命令の撤回がなされるとのことです。しかしこれで両手を挙げて万歳!という訳にはいかないと思います。

JASRACは世界でも有数の精密な徴収分配機能と能力を持った著作権管理事業者です。JASRACの日常業務はたいへん細かい作業の連続です。間違いが許されない作業の連続です。そしてその根幹は著作権そのもので、それを支えるのが著作権者であり著作者です。それら全てが公取委による排除措置命令により、社会的に信頼を失うという重大なダメージを受けたのです。その信頼回復作業を明確にできていないという点で、何も終わっていないのです。
また、そのJASRACも過去に遡ればいろいろな事件がありました。その70年を越える歴史の中でも「古賀財団不正融資事件」は絶対に忘れてはいけない事件です。
今、総会で「古賀財団不正融資事件」の事後処理の進捗状況を質問しますと、もう終わった事だと、出席者から飽き飽きした嘆息が聞こえてきます。しかし、この問題は全く終わっていません。JASRACが古賀財団から代々木上原の本部として建物を借りているという契約で、今だに毎月高額の家賃を支払っているのです。そして、古賀財団からJASRACに返済されるべき数十億円は未だ完済されていません。これは数年で済む話ではありません。
一旦は77億円の“無利子”巨額不正融資契約が成立していたものの、J-scatの前身「信託財産を守る会」が立ち上がり、JASRACを追求したことで結果として、裁判所の和解によって、建設協力金の名目の融資額が52億円に大幅な減額を加え、貸し付け条件を“有利子”に変更したのです。しかしこれは、52億円になって安心してお終いではなく、元々JASRACは信託財産であるお金を第三者に貸し付けてはいけなかったのです。大事件も風化していきます。しかし、その事実は消えませんし、何よりも会員・信託者に十分な確認も無く「私たちの財産を勝手に貸し付けてしまった」ことを絶対に忘れてはならないのです。いつまでも忘れないことが、「次の間違い」を防ぐ重要な手立てです。

「公正取引委員会による排除措置命令」についても同様です。
新聞はJASRACへの排除措置命令が取り下げられる運びだと報じました。JASRACメンバーはみな胸をなで下ろしました。しかし、JASRACは幅広い分野で徴収業務を行っており、いつまた公取委が独占禁止法に基づく検査に入ってくるか解りません。JASRAC執行部は「よらしむべし、知らしむべからず」という風潮を払拭し、全て情報公開するという健全な姿勢を貫かなくてはなりません。
かつてJASRACが公益法人だった時に、文化庁から「文化振興に資する事業」が求められたとして“文化事業”を行う時も、そのお金を準備するために“会費制度”を作りました。会員は突然降ってわいた会費制度導入に喧々諤々の大騒ぎになりました。会員に新たにお金を出させてまでやる「文化事業」とは一体何なのか?の説明がつかないまま現在に至っています。
このような事も、きっちりとした情報公開を行っていれば、議論を尽くして防げるのではないでしょうか。議論の場があれば、ここまで会員・信託者がないがしろにされる事態は防げたと思います。
このように検討すべき多くの課題は残されたままで、ほんの一部しか解決されていません。


<次世代メディアの研究>

音楽が使用される「メインのメディア」をきっちり捉えることが必要です。それも少なくとも5年後の「メインメディア」は押さえておかないと、JASRACの動きが後手になってしまいます。
「テレビ・ラジオ」が主流だったメディアも「インターネット」にとって代わられ、現在のメインは「スマートフォン(スマホ)」になろうとしています。
現在はストリーミングやダウンロードがどのように行われるかで使用料が計算されますが、近い将来、ストリーミングもダウンロードにも当てはまらない使用技術が生まれるものと思われます。なにを称してダウンロードと言えるのかという事態、全く発想が違う著作物の取得方法が現れるでしょう。
子供の空想みたいな話が現実になって「アップル」の快進撃は続いているわけですから、このようなことを専門に研究する機関をJASRACは持つべきだと考えます。その先見性が、JASRACの本業である著作権使用料の徴収と分配の盤石なシステム構築に必ず役に立つと信じています。
事務方だけ専門家として育つのではなく、JASRACメンバー全員が育たなくてはならないと考えます。そのために、理事会を取り囲む専門家による研究機関が必要な段階にきていると考えます。
次世代メディアの研究は、著作権料に密接に関わる必須事項です。
JASRACメンバーへの情報公開を伴う上記のような研究会が必要なのではないでしょうか。


<情報公開の重要性>

公益社団法人だった1998年、JASRACは「情報公開規程」を作り、「情報公開規程Q&A」まで作って、その重要性とこれを遵守すると発表しました。しかし、このコンプライアンス遵守の基本である「情報公開規程」が2012年現在の定款には全くありません。
法人法が変わり、公益社団法人であったJASRACも移行の段階には一旦、一般社団法人になるということは理解できても、最も重要な「情報公開規程」を定款なり定款の細則なりにしっかり明記しなくてはなりません。
JASRACの主体であり重要な構成員であり当事者である会員・信託者にとって、「情報公開」ほど重要なものはないのです。今JASRACは一般社団法人として、全てのことが理事会で決められ、総会はその理事会決定事項を報告するだけの場となりました。構成員である正会員が何も決められないということはおかしいのです。法人法で決まったことだと簡単に却下せずに、協会定款上の例外規定という方法に従えば、総会の議決に正会員の意見を反映させることは可能だと考えます。


<広報活動の重要性>

私達は、世の中がJASRACと著作権というものを理解するべきだと考えがちです。それはそれで間違いないのですが、しかし一般的に著作物の使用者は、著 作権という縛りから解き放たれて自由に音楽を聴いたり歌ったり、音楽を人にプレゼントしたり受け取ったりという楽しみ方を求めています。現実にそれをごく 自然に行っています。
そのような一般的な使用者意識をこちらが理解しているつもりでも、使用者は、こちらが思うほど著作権のことやJASRACを理解する手立てがありません。だから私達から、もっと解りやすいお知らせや注意を喚起するべきなのです。
広報というと自画自賛に終始しやすく、使用者側の目線を考えないことが多い。著作権が何故必要で、それが究極的にどこで何に生かされているのかを、きっちりと解りやすく説くべきではないでしょうか。そこに一手間かける広報が必要です。
これは使用者に迎合する広報という意味ではありません。使用者が疑問に感じるところを、「法律」で一刀両断しない説明や注意喚起を行うということです。「広報」もひとつの“表現”ですから、こちらが範を示すいい機会です。